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疑似家族の「いま」(『プラージュ』:誉田哲也)

賃貸住宅市場で、いま、「シェアハウス」が注目されているみたいです。
ひとつの住居を複数で利用する。コスト面でのメリットはもとより、さまざまな事情を抱えた人たちにとって利用しやすいという側面もあります。

そんな、シェアハウス(のような住まい)を舞台にした小説を読みました(『プラージュ』:誉田哲也)。



住んでいるのは、みんなどこかいわくありげな人たちです。
どんな「いわく」かといえば・・・それぞれ、かつて過ちを犯し、前科を負ってしまった人たちばかりが寄り集っている、ということ。
お互い同士、事情を抱えていることがわかっているから、住人たちはみんな、無遠慮に相手の心に踏み込むことをしたりはしません。作中、「暴くまでもなく、晒される。隠さなければ、暴かれることもない」と語られる関係です。でも、誰かが危難に遭えば、体を張ってでも助け出そうとしたりもします。
住人のひとりは、こんなことを感じます。

 「不安になるほど、ここには垣根というものがない。なのに、それが不思議と心地好い。」

普段は適度な距離をとって接しているのに、いざとなれば一気にその距離をとっぱらってしまう。そんな不思議なコミュニティです。

以前、映画にもなった『パレード』(吉田修一)という本では、かなり違った関係が描かれていました。マンションの一室で共同生活することになった数人の男女。一見、和気あいあいのように見えるその暮らしぶりとは裏腹に、お互いの「本当の姿」に対して、徹底的に無関心です。身近に接していながら、お互いの姿をなにも見てはいない、見えてもいない。読み終えて思わずぞっとするほどのリアリティがありました。

『プラージュ』も『パレード』も、一種の「疑似家族」テーマの物語です。
「疑似家族」は、これまで繰り返し小説や映画で描かれ続けてきました。
たとえば28年前に書かれた『キッチン』(吉本ばなな)でも、フィクショナルな「家族」との生活の中で、ただゆっくりと主人公は再生していきます。

『パレード』を読むと、いまがそんな時代とはかけ離れてしまったことを感じさせられます。
いっぽう『プラージュ』は、このうそ寒さを感じさせる「表面的」なだけの人間関係に疑問符を投げかけ、もういちど揺さぶりをかけるかのようなお話です。

もちろん、「シェアハウス」はよいことばかりではありません。
ハウスを経営する女性は、若い住人にこう語ります。

 「ずっとここにいることは、誰にも、できないんだからね。そのうち君は、ここを出ていかなきゃいけないんだからね・・・」

テンポラリーであることが宿命であるシェアハウス。
「プラージュ」とは、フランス語で「海辺」を意味するとのこと。
どんなに居心地がよかろうが、いずれは立ち去る場所が「海辺」です。
立ち去って、残るのはただ思い出だけ。

ぼくは「海辺」にたたずんだ思い出というのは、ほとんどありません。
なのに「海辺」から連想される言葉は「沈む夕日」です。
なぜなんでしょうね。べつに夕日に向かって叫んだ思い出があるわけじゃないんだけど。

それでは。


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ハードボイルドな女絵師(『眩(くらら)』:朝井まかて)

墨田区が発行する印鑑証明書をみると、その裏側には、かの有名な『神奈川沖浪裏』がデザインされています。

神奈川沖浪裏

地元墨田区に生まれた天才浮世絵師、葛飾北斎。
もしまだ存命だったら、間違いなく「国民栄誉賞」に輝いていたと思います。
その北斎を、「郷土の偉大な芸術家として顕彰」するために開設されることとなった「すみだ北斎美術館」が、いよいよ今年11月にオープンされます。待ち遠しいです。

ところで、北斎には、お栄(号は「応為」)という娘がいました。
晩年の北斎に、「美人画では応為にかなわない」と言わせたほどの絵師だったそうです。
そのお栄が主人公となる小説(『眩(くらら)』:朝井まかて)を読みました。



気むずかしい北斎を支え、身内の不始末に苦労を重ねるお栄。
実りのない恋模様なども絡めながら、西洋画の明暗法に傾倒し、特徴ある細密描写を生み出すさまが描かれます。

後半、「三曲合奏図」という肉筆画誕生の場面が興味深く書かれています。

三曲合奏図

琴、三味線、胡弓、この三つの楽器を奏する三人の女を、画面の中でどのように配置するのがよいか。
最適な構図を求めて工夫を凝らし、苦心を重ねます。
この箇所を、画集やネットなどで実際にこの絵を見ながら読むと、面白さが倍増するのでは。

ルノワールのこのデッサンと、構図が似ている気がしますね。
すこし不思議です。

ルノワール

生没年も不詳というお栄の生涯には、輪郭線がないようにも見えます。
この時代、表舞台に立つことが難しかった多くの女性と同じように。
だけど、輪郭なんて関係なく、くっきりした明暗の中に彼女はその生きたその証を残しました。
北斎の死後、忽然と行方をくらましたというお栄。
大人しく額縁の中に納まることを拒み、ひとり浮世の荒波の中に漕ぎだしていくかのようです。
物語のラストに浮かび上がってきたのは、意外にもハードボイルドな、颯爽とした女絵師の姿だったのでした。

それでは。


プロフィール

JIRO

Author:JIRO
東京下町で開業する司法書士です。
司法書士とはなにをする人か?
・・・一言では説明が難しいです。
といって二言三言あれば説明できるわけではなし。

このブログでは、日頃の出来事や読んだ本、観た映画などのことを書きつらねてみたいと思います。
あ、お仕事のこともすこし触れていきます。

(ホームページ http://www.noguchi-office.jp/)

相続なら江東区の司法書士 みどりの杜司法書士事務所(会社設立)

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