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芦ノ湖畔でふと思ったこと

「ママ、いったいいつになったら死んでくれるの」

『母の遺産』 (水村美苗:中央公論新社)という小説の、挑発的な惹句です。



長い確執の果てに、施設に入居し、やがて入院する母を介護することになる主人公。
ついには延命治療の要否について、決断を迫られてしまいます。

老いて重荷になってきた時、その母親の死を願わずにいられる娘は幸福である。どんなにいい母親をもとうと、数多くの娘には、その母親の死を願う瞬間ぐらいは訪れるのではないか。それも、母親が老いれば老いるほど、そのような瞬間は頻繁に訪れるのではないか。(479頁)

水村美苗の文章は、いつもとても丹精です。
その丹精かつ正確な文章で綴られるのは、母親と娘との間に繰り広げられる葛藤であり、かなりこみ入った「心理の襞」です。

人生に対して貪欲で、アグレッシブに勝手気ままに生き抜いた母。
そのさまを間近で見つづけた娘が、人生に対して防御的になり、知らぬうちに受け身の姿勢が身になじんでしまう。
人生の岐路で自ら選んだと思い込んでいたもの。
でもそれは「選んだ」のではなく、「選ばされていた」もの、「選ばざるをえないから選んだ」ものだった……

ぼくは「母親」にも「娘」にもなったことがないし、今後なる予定もありません。
だから、ここで描かれるような母娘の関係というものは、実感としてはわからない。
わからないながら、すごいなあとひたすら圧倒されてしまったのでした。

さて、物語の後半、主人公は、芦ノ湖畔のホテルに長逗留します。
そこで母親の死の意味と向き合い、自身の生き方を見つめます。
没り日を照り返す湖面のさざなみが、彼女の内面におだやかに働きかける。
来し方行く末に思いを馳せ、「自分」の人生を選び直し、「道を自分で切り開く」決意するのに、「芦ノ湖畔」と「閑静なホテル」の取り合わせは、なかなか効果的です。

ということで、この舞台となったホテルに泊まってみたくなりました。
問い合わせてみたけど、あいにく部屋がとれません。
代わりに予約できたのが、箱根園に近い、「龍宮殿」という旅館。

部屋の窓から目の前に広がる眺望です。

芦ノ湖

空の青よりも淡い色合いの湖面が印象的です。
凪いだ湖、というのは、ある種の鎮静効果があるんだなあと思いました。

これは、道の辺で見つけた秋海棠。

秋海棠

ホトトギスの花も、雑草に混じってなにげなく咲いていました。

ホトトギス

この日は、箱根観光定番の、箱根関所や遊覧船など、ファミリーなコースを楽しみました。
意外と楽しかったのが、「箱根園水族館」です。
「日本一、標高の高いところにある海水水族館」なのだ、とのこと。

水族館

思わず立ち止まって見入ってしまったのがこれ。

イワガメ

「イワガメ」という亀なのだそうです。
水の中、大きく口を開けて天を睨み、微動だにしません。
口の中に小さく見える、赤いぴらぴら。
舌、なのでしょうか。
これを動かすことで小魚をおびきよせ、ぱくり、と食べてしまう。
なんという「受け身」な、他人まかせの生き方でしょうか。
見ているうちに、「そのライフスタイルは、人としていかがなものか」と説教をしたくなってしまいました。
でもイワガメは亀だから、なにを言っても効き目はありません。

さらに見ていると、次第に、この「揺るぎない頑固さ」が親しいものに思えてきます。
「受け身」もここまで徹すれば、これはもう立派な「哲学」ではないだろうか
そもそも、あくせく生きて働いて、それが何になるのか。
なんだかイワガメに説教をされているような気がしてきました。

島崎藤村も、かつて千曲川にその旅情を詠っています。

 昨日またかくてありけり 今日もまたかくてありなむ
 この命なにを齷齪(あくせく) 明日をのみ思いわずらふ


イワガメのオーラに感化され、気分があらぬ方向に引き込まれていきます。
こんなことではいけません。
急いで水族館を出て、芦ノ湖の景観を眺め渡しました。
「道は自分で切り開く」という思いを、あらためて奮い立たせるために。

戯曲『女の一生』で、杉村春子さんも言ってました。

<誰が選んでくれたのでもない,自分で選んで歩きだした道ですもの>

・・・「あくせく」と生きていかないといけないんでしょうね。
まだまだとうぶんのあいだは。


それでは。


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プロフィール

JIRO

Author:JIRO
東京下町で開業する司法書士です。
司法書士とはなにをする人か?
・・・一言では説明が難しいです。
といって二言三言あれば説明できるわけではなし。

このブログでは、日頃の出来事や読んだ本、観た映画などのことを書きつらねてみたいと思います。
あ、お仕事のこともすこし触れていきます。

(ホームページ http://www.noguchi-office.jp/)

相続なら江東区の司法書士 みどりの杜司法書士事務所(会社設立)

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