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「燃料補給のような食事」

前回、「立ち食いそば屋は男たちの聖域」という言い方をしました。
立ち食いそば屋さんという場所でいっとき感じる、あの独特のぬくもり。
たぶん、おそばを作ってくれるのが、たいていの場合、元気のいい「おばちゃんたち」だからかもしれません。
このぬくもりがなければ、そこはただ勤め人にとっての「空中給油所」になってしまいますもんね。

表紙にこんな装画が選ばれている本があります(星野智幸『俺俺』:新潮文庫)

俺俺

牛丼か何かのファストフード店でしょうか。
店員は客の若いサラリーマンの口の中に「食物」を注入します。
その表情はうつろで無表情。
おそらく、客の表情も同じなんでしょう。
「燃料補給のような食事」というタイトルの作品です。

背筋がひやりとするような情景ですね。
描いたのは、若くして亡くなった画家・石田徹也。
作者の星野智幸は、彼の作品にインスパイアされてこの小説を書いたとのこと。

物語の中で、「俺=私」の輪郭はどんどん溶けて崩れていきます。
とめどなく増殖し、やがて静かに暴走していく「俺」、「俺」、そして「俺」。

最近の若い書き手について、同じ小説家の高橋源一郎はこんなふうに書いています(『大人にはわからない日本文学史』:岩波現代文庫)。




「彼らは、というか、「私」は、なにかと戦おうとするより先に、まず自分がどんな世界に生きているのかを知りたいと思っています。あるいは、「私」というものがなになのかを、触知したいと願っているのです。そして、「私」というものが、あまりに、儚(はかな)く、とらえがたいものであるが故に、それは、世界と戦って守るべきものでも、一回きりのかけがえのないものでもなく、交換可能で、どんなキャラクターにでも変身できるものだとさえ思うことがあるのです。」

もし「私」という生が「一回きりのかけがえのないもの」と思えないとすれば・・・・
たしかに、どんな表情をしたらいいのかわからなくなってしまいそうですね。

石田徹也が描く作品に登場する青年たちに共通する、うつろなまなざしと閉じられた口。
一度観ただけで、印象に深く刻み込まれてしまう表情です。
そしてなぜだか、ムンクの『叫び』が思い出されてくる。
得体の知れない恐怖に身をよじり、顔をゆがめて悲鳴をあげる、あの男。

すくなくとも彼には、「目を見開く」ことができました。
口を大きく開けて、「叫ぶ」ことができた。
それによって、体内深くよどむ澱(おり)を勢いよく「吐き出す」こともできました。

石田徹也の世界では、登場人物は(青年も大人も子供も)、そのいずれをもすることがありません。
目は焦点を失い、口は縫い付けられたまま。
はずすことのできないペルソナです。

もしもうっかり心の底に下りていて、こういう表情に出会ってしまったら……。
そんな想像をするのは、なんだか恐ろしいですね。

とりあえず、意識して目をぱっちりと開き、口を開けてシャウトしたほうがよさそうです。
立ち食いそば屋さんで食べ終えた器を返すときには、大きく元気に「ごちそうさまあっ〜」と声に出す。
「おばちゃんたち」からは、きっと威勢のいい返事が戻ってきます。
返事と一緒に、「おばちゃんたち」のパワーも、ついでに逆流してきます(^_^)


それでは。

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プロフィール

JIRO

Author:JIRO
東京下町で開業する司法書士です。
司法書士とはなにをする人か?
・・・一言では説明が難しいです。
といって二言三言あれば説明できるわけではなし。

このブログでは、日頃の出来事や読んだ本、観た映画などのことを書きつらねてみたいと思います。
あ、お仕事のこともすこし触れていきます。

(ホームページ http://www.noguchi-office.jp/)

相続なら江東区の司法書士 みどりの杜司法書士事務所(会社設立)

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