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猛暑に負けず恋愛小説

連日、猛暑が続いています。
日射しの中を、3歩あるけば汗が噴き出し、10歩あるくと頭がくらくらします。



こんなとき、冷房がほどよく効いたカフェでアイスコーヒーを飲みながら読むのには、どんな本が適しているのでしょう。
ためしに、海外の恋愛小説を集めた短編集『恋しくて - TEN SELECTED LOVE STORIES』 (中央公論新社)を読んでみました。アンソロジーの編者は村上春樹。翻訳を担当し、みずからの書き下ろし作も一編、掲載されています。


「あとがき」にもあるとおり、じつにストレートなラブストーリーもあれば、成熟した、あるいは屈折した大人の愛の物語もあります。清涼感もあるし、ちょっとひやりとする味わいもあります。するする読んで読み終えると、目の前の席には、本から抜け出たような可憐なヒロインが座っていて、潤んだまなざしを優しくそっと注ぎかけてくるのでした・・・・というようなことは絶対に起こりません。それでも、「猛暑なんて騒ぐに値せず」という気分になることはできるかも。

収められているのは10人の作家による10の短編。
読んでいるとき、あるいは読み終わったとき、なぜだか恋にまつわる古今の和歌・短歌があれこれ思い浮かんできました。
それぞれの短編を簡単に紹介します。

1.『愛し合う二人に代わって』 :マイリー・メロイ作

メグ・ライアン主演の映画「恋人たちの予感」を思わせる、「いろいろとあった末に結ばれる二人」のお話です。
「嘘からでた実(まこと)」といった雰囲気の、とてもストレートなラブロマンス。
思い浮かぶ和歌も、定番の百人一首にある、オーソドックスなこんな歌でした。

   <瀬を早み岩にせかるる滝川の われても末に逢はむとぞ思ふ   崇徳院>

2.『テレサ』 :デヴィッド・クレーンズ作

頭の回転がすこし遅い14才のアンジェロは、自分の巨体となじむことができません。自分の体が自分の意識とは別のものだと感じ続けています。そんな彼がクラスの女の子に恋をします。一途に帰宅する彼女を追いかけます。そこで知ってしまう、彼女の実生活。それでも彼は、懸命に伝言を残します。思いを伝えるために。
「テレサへ。ぼくはきみのあとをつけてきた。ぼくはともだちがほしい。きみは?」
思い切って「一歩」を踏み出した彼の青春がはじまります。時計は時を刻みはじめます。
そんな彼に捧げたいのはこんな歌。

  <かの時に言いそびれたる大切の言葉はいまも胸にのこれど   石川啄木>

3.『二人の少年と、一人の少女』 :トバイアス・ウルス作

17才と18才。若い三人の男女が描く三角関係のお話です。
主人公は、夏目漱石の『こころ』みたいな振る舞いにはおよびません。辛くせつない時間の積み重ねは、彼の自我を揺さぶります。自立への意識も頭をもたげます。それは「大人」への入り口なのでしょうか。
彼と彼女は、二人で垣根のペンキ塗りをします。白く塗るべき垣根を「赤」で塗ります。
「赤はコントラストを与えるし、玄関までの煉瓦道を際立たせる。それこそがまさにここで求められていることだ。」
かつて与謝野晶子・鉄幹との三角関係に悩み、身を引いた歌人のいたことが思い出されます。

  <それとなく紅き花みな友にゆづり そむきて泣きて忘れ草つむ  山川登美子>

4.『甘い夢を』 :ペーター・シュナム作

若い幸福なカップルの日常生活が描かれます。貧しいけれど、充足した日々。妻は、ふと目にした「コルク抜き」を買います。女の子の人形のかたちをしたコルク抜きです。しあわせの確かな「象徴」としての、ささやかな日用品。でも、アパートの外では不穏な出来事が起きたりします。湖では水死体が見つかったりもします。でも「いま」は幸福そのもの。もろくて崩れやすくて束の間かもしれないけれど、いまはまだ幸福そのもの。

  <きみが歌うクロッカスの歌も新しき家具の一つに数えむとする  寺山修司>

5.『 L・デバードとアリエット-愛の物語』 :ローレン・グロフ作

元オリンピック水泳選手の貧乏詩人と、富豪の一人娘。宿命的に惹かれあい、結ばれはするものの・・・。
第一次大戦終戦間際、スペイン風邪で大勢が死んでいく状況を背景に物語は進みます。「死に別れ」と「生き別れ」、ほんとうに辛いのはどっちなんでしょうね。そんなことを考えてしまう、せつなくてやるせないけど、読み応え充分のお話です。
再び百人一首から、こんな歌に登場してほしくなりました。

  <あらざらむこの世のほかの思ひ出にいまひとたびのあふこともがな  和泉式部>

あるいはまたこんな歌。

  <いつかふたりになるためのひとり やがてひとりになるためのふたり  浅井和代>

6.『薄暗い運命』 :リュドミラ・ペトルシェフスカヤ作

数頁で書かれた超短編作品です。でも救いのなさに身が震えるような、心理的冷却効果満点の物語です。
不実な男と関わってしまうその女性。
「彼女の愛するその男は無神経で、残酷だ。そういう男なのだ。疑いの余地なく。関われば関わるだけ、傷つくに決まっている。」
ひどい男がいたものですね。世の中、そういうものかもしれないとはいえ・・・
文章は次のように続きます。
「しかしそれでも彼女は幸福のあまり泣きだし、泣きやむことができなかった。」
演歌の世界さえ思わせるおんな心なのでした。

   <幾人にも愛を分つと言ひきりし 彼(か)の時の君を憎み得ざりき  三国玲子>

7.『ジャック・ランダ・ホテル』 :アリス・マンロー作

昨年のノーベル文学賞作家、アリス・マンローの短編を村上春樹が翻訳した注目の短編です。
若い娘と駆け落ちしてしまった恋人を追いかけてオーストラリアへと海を渡るヒロイン。そこでまったくの別人になりすまし、逃げた男を相手に奇妙な文通を始めます。なかなか屈折したストーリーなんです。耳に心地よい、「愛-許し」、「愛-忘却」、「愛-永遠」。どんなリズミカルな言葉でさえ、一転、耳を聾する路上のハンマーのような「うるさいだけの騒音」になってしまうというアイロニー。一筋縄ではいかない男と女のありようが浮かび出てくるお話でした。

  <立ち直りゆきたし 君の背離さえ一つのアンチテーゼとなして  大西民子>

8.『恋と水素』 :ジム・シェパード作

1937年の、ヒンデンブルグ号爆発事故を背景にした、ナチ党員の青年同士による禁断の恋。人に知られてしまえばすべてを失うリスクを背負い、「飛行船」という危険で狭くて不安定な中で、人目を忍んでもたれる二人の密会。そしてカタストロフ。

  <火祭りの輪を抜けきたる青年は霊を吐きしか死顔をもてり  春日井建>

9.『モントリオールの恋人』 :リチャード・フォード作

「正しい恋の終わり方」なんていうものが果たしてあるのだろうか、と考えてしまう、苦くて怖いお話です。
ましてやそれが道ならぬ恋であるのだとすれば。
人生の中で人は気づかないうちに"頂点に上り詰めていた"ということがあるかもしれない。そんな感慨に続けて、こんな省察が語られます。
「そして言うまでもなく更に後日、人は何かに行く手を塞がれることになる。運命に定められたポイントに直面するのだ。そこには興味深い選択の余地なんてものはない。あるのは気が滅入るような惨めな選択肢だけだ。」
ある程度の年齢に達した人には、身につまされる言葉だったりするのでは。ほろ苦いです。
口直しに、隣家の人妻との恋を貫くことを選択した歌人が、後朝(きぬぎぬ)の別れに詠んだ歌を。

  <君かへす朝の舗石(しきいし)さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ  北原白秋>

10.『恋するザムザ』 :村上春樹作

なんと、あのカフカの『変身』で「虫」と化していたザムザが「人間」に再変身。
でも、「人間」としての記憶は失せてしまい、服の着方さえもわかりません。ときは奇しくも「プラハの春」による争乱の真っ最中。窓の外ではソ連戦車が轟音を響かせます。そんな中で出会った奇妙な少女に一目惚れするザムザ。
どんなに不条理で受け入れがたい状況の中でも、激動の最中(さなか)にあっても、人は人に恋をします。
いつの時代でも、変わることはありません。
万葉集の時代に遡ってみれば、やっぱり人は人に一目惚れをして、その思いを歌に残しました。
たとえばこんな歌です。

   <多摩川にさらす手作りさらさらに何そこの児のここだ愛しき   東歌>

多摩川で布を晒していたあの子に惚れてしまった。なんだってこんなに愛しいのだろう・・・・

理由なんて誰にもわかりません。好きだから好き、ただそれだけです。
シンプルなメッセージが心に残る書き下ろし短編でした。
アンソロジーの掉尾を飾るにふさわしかったのではと思います。

それでは。






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プロフィール

JIRO

Author:JIRO
東京下町で開業する司法書士です。
司法書士とはなにをする人か?
・・・一言では説明が難しいです。
といって二言三言あれば説明できるわけではなし。

このブログでは、日頃の出来事や読んだ本、観た映画などのことを書きつらねてみたいと思います。
あ、お仕事のこともすこし触れていきます。

(ホームページ http://www.noguchi-office.jp/)

相続なら江東区の司法書士 みどりの杜司法書士事務所(会社設立)

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