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五人の裸婦と、屍の兵士(映画『FOUJITA』と藤田嗣治)

画家藤田嗣治を描いた映画『FOUJITA』を観てきました。

藤田の生涯や画業を丹念に追う、という映画ではありません。
テーマはどこにあるのかを考えはじめると、なかなか手強い映画です。
こういう映画を観るときは、肩の力を抜くに限ります。抜きすぎるとうとっとしてしまうこともあるので要注意です。

映画前半の舞台は、1920年代、芸術家たちが華やかに才能を競い合った時代のパリ。
後半は太平洋戦争のまっただ中にある日本に舞台を移します。

前半パートでまず目を惹くのが、面相筆を持つ藤田が、女性の横顔、その輪郭をためらいなくなぞる場面。孤独なアルチザン(職人)としての藤田の側面が活写されます。
そして15世紀に織られた、ミステリアスな『貴婦人と一角獣』のタペストリーを食い入るように見つめる彼の姿。過剰なほどの長回しで撮られています。6枚連作のこのタペストリー、テーマは六つの感覚であるとされているけど、6枚目の解釈は謎に包まれています。
画家としての藤田の矜持や、内面に渦巻くただならぬ情念をさりげなくイメージさせるシーンです。

映画は、藤田たち芸術家が「狂乱の時代」そのままのばか騒ぎに興ずる様子を描きます。
でもどんなにおどけても、藤田の背中には寂寥がまとわりついています。
一方、酒場で熱狂する彼らと裏腹に、パリの街並みは息をひそめているように見えます。
彼らが澱んだ空気を撹拌しようとすればするほど、街全体はなぜかひっそりと静まりかえります。

舞台が日本に移ると、一転して自然の繰り出す「音」があふれています。雨の音、風の音、せせらぎの音。耳をよくすませば、その奥からは、軍靴の響きや砲声、爆音も聞こえてきます。多重的に音が混ざり合う中、息をひそめているのは、藤田やその妻、周囲の人たちのほうです。

出征していくある兵士は、「きつね」にまつわる言い伝えを語ります。
走行する汽車をたぶらかし、逆にひき殺されてしまったきつね。
この映画の、どこにどのように当てはめていいのかわかりにくい説話です。
わかりにくいけれど、どこか気になる説話でもあります。
行き場のないジグソーパズルの断片のようです。

ためしに、藤田自身の姿をこの「きつね」に投影してみました。
パリ時代の藤田は、己を韜晦(とうかい)し、自己演出の限りを尽くします。
終戦直前の時期になると、自らの芸術的創作意欲を充たすため、軍の要求する「戦意高揚」を結果として隠れ蓑にした、という側面がなかったとは言い切れません。そして行き着いたのが『アッツ島玉砕』などの戦争画でした。
どちらの「時代」にあっても、周囲を「あざむく」ことを余儀なくされていたと言えないこともなさそうです。

でも、そのようにして藤田が「たぶらかした汽車」は、藤田にしっぺ返しをします。
パリでは、たとえ帰化したあとであっても結局は異邦人でありつづけたし、また、戦後の日本は、藤田からその居場所を奪いました。

周囲にうごめく圧力をすべてを逆手に取ろうと立ち回ったあげくのその生涯は、説話の「きつね」とどこか通じるようにも思えます。
ただ、藤田は、汽車に黙っておとなしくひき殺されたりはしません。
もっとずっとしたたかです。映画の最後、画面をよぎるCGの「きつね」は、山奥の闇の中に消えていきます。誰の手にも届かない闇です。闇の中で孤独ではあっても、自由です。孤独だからこそ自由です。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

東京国立近代美術館で展示されている、藤田嗣治の全所蔵作品を観てきました。
映画にも登場したパリ時代の『五人の裸婦』や、戦争画の『アッツ島玉砕』、『サイパン島同胞臣節を全うす』などが展示されています。

戦争末期に制作された『アッツ島玉砕』などの作品には、西洋古典絵画のモチーフや構図も取り入れられているそうです。
画家としての藤田は、いかなる状況でも前向きです。おそるべき創作意欲です。
そしてここで描かれている「ころしあい」の、息をのむばかりのむごたらしさ。
乳白色の裸婦と茶色一色の屍(しかばね)は、20年の時間を隔てて描かれました。
両者を同じ場所、同じ空間で観て、どんな感想を持ったらいいのか、とまどうばかりでした。


五人の裸婦

アッツ島玉砕



それでは。


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No title

こんにちは。

この映画、知人が観に行って爆睡してしまったと言っていました。

パリ時代に描かれた絵と日本に帰ってきてからの戦争画とのギャップが激しすぎて、本当に同じ人が描いたのかと思ってしまいました。

Re: No title

こんにちは、蜩さん!

鑑賞するとき、神経に緊張を強いられるタイプの映画ってありますよね。
この映画もまちがいなくそういう雰囲気を持っていました。
だから、映画館に足を運ぶ前に、できればきちんと爆睡しておいたほうがいいです^^

裸婦と戦争画、ほんとにすごいギャップですよね。
「時流に乗った」、とか「軍部に迎合した」と言われることのある人でした。
反面、時代の「奔流」とか「荒波」から逃げようとしないで、ひたすら向こう岸を目指す、ときに迷いながらも一筋に我が道を行く、そんな人だったのかもしれないなあと思いました。
プロフィール

JIRO

Author:JIRO
東京下町で開業する司法書士です。
司法書士とはなにをする人か?
・・・一言では説明が難しいです。
といって二言三言あれば説明できるわけではなし。

このブログでは、日頃の出来事や読んだ本、観た映画などのことを書きつらねてみたいと思います。
あ、お仕事のこともすこし触れていきます。

(ホームページ http://www.noguchi-office.jp/)

相続なら江東区の司法書士 みどりの杜司法書士事務所(会社設立)

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